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神戸地方裁判所 平成3年(行ウ)37号 判決

原告

芝本産業株式会社

右代表者代表取締役

芝本正人

右代理人支配人

芝本忠雄

被告

三木市長

加古房夫

被告

三木市

右代表者市長

加古房夫

右被告ら訴訟代理人弁護士

重宗次郎

俵正市

苅野年彦

草野功一

坂口行洋

寺内則雄

小川洋一

主文

一  原告が平成三年七月一八日に被告三木市長に対してした一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業許可申請について、同被告が同年八月二二日付けで右許可申請の受理を拒否した処分を取り消す。

二  被告三木市は、原告に対し、金五万円及びこれに対する平成五年二月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

原告の被告三木市長に対する訴えを却下する。

(本案の答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、浄化槽維持管理・浄化槽の販売及び施工、一般廃棄物並びに産業廃棄物の収集及び処理等を業とする会社である。

(二) 被告三木市長は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)並びに浄化槽法第六章等に定める事務を行い、行うべき者である。

2  本件に至る経緯

(一) 原告は、平成三年三月七日、被告三木市長に対し、廃棄物処理法七条一項(平成三年法九五条による改正前のもの、以下同じ。)に基づき、浄化槽汚泥の収集・運搬に関する一般廃棄物処理業許可申請書を添付書類(事業計画書、作業員名簿、作業用器具調書、定款の写し及び登記簿謄本、営業所、車庫等の構造及び付近見取り図)と共に提出した。

(二) 原告は、右(一)に併せて、浄化槽法三五条一項に基づく許可申請書も提出した。

(三) 被告三木市長は、右申請に係る各書類(以下「本件申請書類」という。)の受領を拒否したので、原告は、同年三月八日、これらを郵送し、同月九日、同被告に到達した。

(四) 被告三木市長は、同月一一日、本件申請書類を原告に対し、郵送で返送してきたが、その理由は、「詳しく説明したとおりで受理できない」というものであった。

(五) 改めて原告が被告三木市長に理由を質したところ、同被告の返答は、浄化槽法三五条三項及び三木市廃棄物の処理及び清掃に関する規則八条各項に規定する許可申請書(様式四号及び四号その二)に必要な添付書類を添えて提出しなければならないのにこれに適合していないというものであった。

(六) 原告は、同年六月四日、再び、本件申請書類を郵送で被告三木市長に送ったところ、同被告は、同月一四日付けで「内容が浄化槽法三五条三項及び規則八条各項の規定に適合していない」として受領を拒否し、本件申請書類を原告に返送してきた。

3  本件処分の存在

(一) 原告は、同年七月一八日、再び、本件申請書類を被告三木市長に郵送した。

(二) 被告三木市長は、「必要な書類審査を行ったところ、法律・市規則に適合しない」として、同年八月二二日付け書面で原告に対し、本件申請書類の受理を拒否する旨を通知し、右書面は、同月二三日に原告に到達した。(以下「本件処分」という。)

4  本件処分は、原告が一般廃棄物処理業と浄化槽清掃業の申請書を被告三木市長に適法に提出したにもかかわらず、同被告が、申請の具体的様式の説明・呈示も全くなく、申請用紙の交付もなく、受理を拒否したものであり、適正手続に反し違法である。

5  原告は、本件処分により、次のような損害を被った。

(一) 申請に要した費用

① 平成三年三月七日の持参提出

金一〇三〇円

② 平成三年三月八日の郵送提出

金一〇三〇円

③ 平成三年六月三日の郵送提出

金一〇三〇円

④ 平成三年七月一八日の郵送提出

金一〇三〇円

(二) 原告が被告の違法不当な取扱により受けた精神的苦痛は大きく、その損害は少なくとも金一〇万円を下らない。

6  被告三木市は、被告三木市長の前記違法な行為により原告が被った損害を賠償する責任を負う。

7  よって、原告は、被告三木市長に対し、本件処分の取消しを求めると共に、被告三木市に対し、国家賠償法一条に基づき、損害賠償の内金五万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年二月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1(一)の事実は知らない。

2  請求原因1(二)、同2(一)ないし(六)、同3(一)及び(二)の事実は認める。

3  請求原因5(一)(二)の事実は否認する。

4  請求原因6は争う。

三  被告三木市長の本案前の主張

1  本件の被告三木市長の行為は、行政処分にも裁決にも該当しないから取消訴訟の対象とならない。

2  本件申請に対する許可期間は平成三年四月一日から平成四年三月三一日までであり、同期間は既に経過しているから、訴えの利益を欠く。

3  原告は、平成五年二月二日に本件(平成三年(行ウ)第三七号事件)と同様の請求原因で被告三木市に対する別訴の損害賠償請求事件(平成五年(ワ)第一五六号事件)を提起しているから、訴えの利益を欠く。

四  被告らの本案の主張

原告の本件申請を被告三木市長が受理しなかったのは、原告の本件申請の様式が適式でなかったためであり、この点について、被告三木市長は、口頭及び文書で原告に説明通知をしているし、また、原告に再三、所定の様式に基づく申請をするように指導しているから、被告三木市長の本件処分は適法である。

五  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

1  本案前の主張について

(一) すでに、一〇回を超える弁論が開かれ、本案についての答弁や種々の反論を重ねた上で本案前の主張をするのはそれ自体が行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一三九条に反し許されない。

(二) 平成四年度にも原告は申請をしているから、訴えの利益はある。

2  本案の主張について

(一) 被告三木市長が、原告に再三、所定の様式に基づいて申請するよう指導したとの事実はない。

(二) 原告は、被告三木市長に対し、三木市の様式の示唆・申請書類の交付を求めたにもかかわらず、同被告はこれを拒否したのである。

(三) したがって、被告三木市長の本件処分は適正手続に反し、また、原告の申請権を侵害する違法なものである。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一本案前の主張について

一本案前の主張の時期

原告は、本件では、既に一〇回を超える弁論が開かれ、本案についての答弁や種々の反論を重ねた上で本案前の主張をするのは、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一三九条に反し許されないと主張する。

しかし、民事訴訟法一三九条は、職権調査事項である本案前の主張については適用がないから、原告の右主張は採用できない。

二本件処分は取消訴訟の対象となるか。

本件処分取消しの訴えは、被告三木市長が原告の一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可を求めるための申請を受理しなかったことを違法であるとして、これに対する不服を申し立てるものであるから、申請受理拒否行為に対する取消訴訟であると解される。

一般に、申請に対して行政庁が受理を拒否した行為については、申請者に法令に基づく申請権が認められている場合には、手続上の権利が侵害されたものとして、取消訴訟の対象となると解せられる。

本件の申請は、廃棄物処理法七条及び浄化槽法三五条一項、三木市廃棄物の処理及び清掃に関する条例七条、同規則八条で定める一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可を求めるものであり、この申請が受理されない限り、原告は許可を受けることができず、引いては右業務を行うことはできないことに鑑みると、申請受理の拒否は、右法令に基づく原告の具体的権利義務ないし法律上の利益に影響を及ぼす行為であるから、行政処分に該当し、取消訴訟の対象となると解すべきである。

三訴えの利益の有無

1  本件処分の効力について

被告は、本件申請に対する許可期間は平成三年四月一日から平成四年三月三一日までであり、同期間は既に経過しているから、訴えの利益を欠くと主張する。

廃棄物処理法七条三項は、一般廃棄物処理業の許可には、期限を付することができるとされており、〈書証番号略〉、証人小西利隆の証言によれば、被告三木市長は、一般廃棄物処理業の許可に係る期間は、毎年四月一日から翌年三月三一日までとし、平成三年度(平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで)の許可については、同年二月二一日から同月二二日までの間に申請予定者に申請用紙を配付するとの告示を出していること、前記認定のとおり、原告が被告三木市長に繰り返し提出した一般廃棄物処理業に関する申請書は、一応平成三年度分の営業についての許可申請書であることが認められる。

しかし、前記認定のとおり、原告と被告三木市長との間で申請に関する書類の送付と返送が繰り返され、その間に許可に係る営業期間の始期である平成三年四月一日が到来してしまったため、申請書の許可に係る営業期間を特に限定していない以上、原告としては、許可を得たときから一年間という期間の許可を得ることができるとの意思を有していたと推認することができ、またそのように期待しても無理からぬものがあるということができる。

そうすると、平成四年三月三一日を経過しても、なお、本件処分の効力は存続し、その取消しを求める利益は消滅していないと解すべきである。

2  損害賠償請求との関係

被告三木市長は、原告は平成五年二月二日に本件と同様の請求原因で別訴の損害賠償請求事件を提起しているから、訴えの利益を欠くと主張する。

しかし、取消訴訟と損害賠償訴訟は、それぞれ目的・機能を異にするのであるから、同一の違法事由につき損害賠償訴訟が提起されたからといって、取消訴訟につき訴えの利益がないとはいえない。

3  以上によれば、本件処分の取消訴訟について、訴えの利益がないとする被告三木市長の主張は採用できない。

第二本案の主張について

一本件処分の取消請求について

1  請求原因について

(一) 請求原因1(一)の事実は弁論の全趣旨により認められる。

(二) 請求原因1(二)、同2(一)ないし(六)、同3(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  本件処分の適法性について

(一) 〈書証番号略〉、証人小西利隆の証言によれば、次の事実が認められる。

(1) 三木市では、一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可申請について、平成三年度は、平成二年度の許可業者のみの申請を受け付け、新規の申請者は申請を受け付けない方針をとることとした。

そして、平成三年度分(平成三年四月一日から平成四年三月三一日まで)の許可申請書を平成三年二月二一日及び二二日の二日間に限って三木市役所生活部生活環境課環境管理係において交付すること、許可申請期間を同月二五日から同年三月八日までの間とすること及び新規許可申請は受け付けないという前記方針を市の告示という形で公示した。

(2) 同年三月七日に三木市役所を訪れた原告に対し、右の事情を公示文書を示して説明した。更に、右担当職員は、原告が提出した本件申請書類は基本的に加古川市における申請書の様式に順じたもので、三木市の様式とは異なっていたので、口頭及び書面で、再三、原告の申請は申請の様式が三木市の様式と異なるので受理できないと説明した。

(3) 原告が被告三木市長に提出した本件申請書類のうち、まず、一般廃棄物処理業許可申請に関する申請書には、事務所の所在地、名称、代表者の氏名、取扱廃棄物の種類、収集、運搬、処分の区分、営業の区域、営業所、車庫の所在地が記載されており、その添付書類として、①事業計画書、②作業員名簿、③作業用器具調書、④定款の写し及び登記簿謄本、⑤営業所、車庫等の構造及び付近見取り図が挙げられていた。また、浄化槽清掃業許可申請書には、事務所の所在地、名称、代表者の氏名、営業所、車庫の所在地が記載されていた。

(4) 原告は、近隣の高砂市及び稲美町に対する申請では、それぞれの市又は町の条例を調査し、それに基づいて、申請書を提出していたが、三木市が定めている「三木市廃棄物の処理及び清掃に関する規則」八条には、許可申請書の様式がある旨定められているものの、同市が発行している条例集には、その様式が省略されていた。

(二) そこで、被告三木市長が三木市で定めている申請書と様式が異なるからという理由で原告の申請を受理しなかった行為の適法性について検討する。

廃棄物処理法七条二項は、一般廃棄物処理業の許可基準を定め、これに適合していなければ申請についての許可を与えることができないとしているが、その申請書の様式、申請書に添付すべき書類等については、同法、同法施行令及び同法施行規則にも特に定めがない。そこで、前掲〈書証番号略〉によれば、三木市では、前記「三木市廃棄物の処理及び清掃に関する規則」の八条において、廃棄物処理法七条に基づき、一般廃棄物処理業の許可を受けようとする者は、許可申請書(様式四号)に同条に定める書類を添えて、市長に提出しなければならないと定めていることが認められる。そして、右各証拠によれば、被告三木市における一般廃棄物処理業許可申請書の様式には、①事務所の名称、所在地、②取扱廃棄物の種類、③収集、運搬及び処分の別、④営業区域、⑤車両、器材等、⑥従業員数、⑦処理料金を記載すべきとし、添付書類として、①住民票の写し又は外国人登録証明書(法人にあっては定款及び登記簿謄本)、②事務所及び工場又は事業場の設置場所並びにその付近見取図、③事業計画書、④埋立処分の場合、平面図、縦断面図、横断面図、施設の構造詳細図及び土地登記簿謄本、⑤その他市長が必要と認める書類を挙げ、かつ、申請者が廃棄物処理法七条二項四号イ、ロ、ニ及びホに該当しないことを誓約する誓約書の書式等が掲げられていることが認められる。

他方、浄化槽法三五条一項は、市町村長による浄化槽清掃業の許可を受けようとする者は、厚生省令で定める申請書及び添付書類を市町村長に提出しなければならないと定め、同法三六条は、その許可の基準を定めている。これを受けて、同法施行規則一〇条は、申請書に記載すべき事項として、①氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名、②営業所の所在地、③事業の用に供する施設の概要を挙げており、また、申請書に添付すべき書類として、①申請者が法人である場合には、その法人の定款又は寄付行為及び登記簿の謄本、②申請者が個人である場合には、その住民票の写し、③申請者(未成年者又は法人である場合には、その法定代理人又はその役員を含む。)が法三六条二号イからニまで及びヘからチまでのいずれにも該当しない旨を記載した書類、④申請者が同規則一一条四号に該当する旨を記載した書類、⑤市町村長が必要と認める書類を挙げている。

このような法令又は条例、規則等において定められている記載事項、様式と、原告が被告三木市長に提出した本件申請書類中の記載とを比較すると、原告の申請書及び添付書類には、廃棄物処理法七条二項及び浄化槽法三六条に定めている許可基準に係る事項のうち、主要な点は記載されているし、また、許可不許可を判断するに当たって必要と思われる書類のうち、主要な書類は、添付されていたと推認することができ、両者間に差異が存在していたとしても、それは、形式的なものに限られ、ごく軽微なものであるということができる。仮に、証人小西利隆が証言するように、被告三木市長が許可の当否を判断するに当たって必要な事項が欠けているとか、判断に不可欠な書類が添付されていないのであれば、補正を命じれば足りることである。そして、もし、申請者において、補正を命じられた書類等を提出しなかったり、また記載事項の修正に応じないのであれば、申請の当否を審査する過程で問題とし、最終的に、申請を却下すれば足りるのであって、申請を受け付ける際に、単に申請書の様式が異なるという形式のみを捕らえて、そもそも受理すらしないということは、法令上許されるものではないといわなければならない。

また、本件では、被告三木市の担当者において、三木市の様式と異なる書式(加古川市のそれである。)に従って提出してきた原告に対し、三木市の申請書の様式について、教示した事実を認めることはできない。特に、三木市においては、前記認定のとおり、条例集には、その様式の記載を省略しており、一般人において、その内容を知ることが困難であるという事情が存在しているのであるから、本件のように、申請書の様式が市町村で定めたところと異なる書面で申請があった場合に、そのこと自体が問題であり、申請が受理できないというのであれば、許可権者としては、具体的に様式のどこが不都合なのかを指摘し、様式の写し等を交付するなどして、指導すべきであったといわなければならない。この点について、証人小西利隆は、原告から、三木市の様式の交付を求められたことはない旨証言するが、直ちに採用することはない。

以上のとおり、不適式又は内容に問題があると窺われる申請であっても、それが法令によって認められた申請権の行使に当たると解することができ、かつ、申請書に法令で要求されている基本的な事項が記載されている場合は、正当な理由なく受理を拒否することは許されないのであり、本件において、形式的な様式の違いを理由に原告の適法な申請の受理を拒否することは許されず、被告三木市長の本件処分は違法というべきである。

二損害賠償請求について

1  被告三木市の損害賠償義務の存否

前掲各証拠によれば、被告三木市長は、申請書の様式が異なることを理由に原告の本件申請の受理を拒否しただけでなく、原告に対し、具体的様式を教示することも申請書を交付することもなく、請求原因2記載のとおり、原告の再三の申請を漫然と拒否し続けたことが認められるから、被告三木市長の行為は、国家賠償法一条にいう違法な行為に該当するというべきである。

したがって、原告がこれによって損害を被った場合には、被告三木市は同条に基づき、その被った損害を賠償すべき義務がある。

そして、前記認定したところによれば、右違法な行為について、被告三木市長及び被告三木市の担当者において故意又は過失が存在していたことは明らかである。

2  損害

(一) 請求原因5(一)①ないし④の事実は、〈書証番号略〉により認められる。

(二) 請求原因5(二)について検討するに、原告は、再三の申請に対し、適式な様式を示されることもなく単に様式が違うというのみで受理を拒否されたのであるから、相当の精神的損害を被ったことは推定される。

そして、本件拒否処分に至る経緯、拒否の態様等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝するためには、金五万円をもって相当と認める。

三結論

以上より、原告の請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九三条一項本文、八九条を適用して。主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官吉野孝義 裁判官伊東浩子)

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